「どうしてこんなに身体がつらいのだろう……」
60代の女性が、当院を訪れたときのお話です。
最初に感じていたのは、下肢の引きつりでした。
「足が引きつるような感じがする」
そんな違和感から始まり、やがて瞼が下がるようになり、病院では「眼瞼下垂」と診断されました。
病院で治療を受けましたが、3か月が経過しても症状に大きな変化はありませんでした。
さらに、その頃から「声が枯れる」という新たな症状が出てきました。
「風邪をひいたのかな?」
最初はそう考えていたそうです。
そんなとき、以前から当院に通われていた娘さんが、お母様のことを相談してくださいました。
「一度、お母さんを連れてきてください」
私はそうお伝えしました。

まず、身体を一から確認する
来院されたとき、私はこれまでの病歴や症状の経過を丁寧に聞くことから始めました。
いつから症状が始まったのか。
どのように変化してきたのか。
病院ではどのような検査を受け、どのような説明を受けたのか。
そのうえで、神経の圧迫が関係していないかを確認し、神経学的・整形学的な検査を行いました。
そして、もう一つ行ったのが、東洋医学の「四診」です。
東洋医学では、目に見える一つの症状だけを見るのではありません。
顔色や舌、声、身体の状態を観察する「望診」「聞診」、これまでの経過を聞く「問診」、そして脈や腹部、身体の圧痛などを確認する「切診」。
これらを総合して、その人の身体の状態を「証」として捉えていきます。
経絡治療では、症状のある場所だけに注目するのではなく、身体全体の経絡のバランスをみながら治療方針を組み立てます。 (一般社団法人 東洋はり医学会)
今回のケースでも、身体を確認していくと、いくつかの圧痛点が経絡上に現れていました。
さらに症状の経過と身体の反応を照らし合わせていくと、私は「陰蹻脈(いんきょうみゃく)」との関連性が強いと判断しました。

「陰蹻脈」とは?
陰蹻脈は、東洋医学でいう「奇経八脈」の一つです。
現代医学の神経や血管と同じものとして考えることはできませんが、経絡理論の中では、身体の陰陽のバランスや下肢から体幹、さらに目などとの関係を考える際に重要な経脈として扱われています。
陰蹻脈の八脈交会穴として知られているのが「照海」です。
そして、照海と「列欠」を組み合わせる治療は、陰蹻脈に対する代表的な配穴の一つです。
北海道の理療分野の資料でも、照海―列欠の組み合わせは陰蹻脈に対応するものとして整理されています。 (北海道教育委員会リリオ)

古典的な経絡治療の文献でも、照海と列欠は陰蹻脈に関係する要穴として扱われてきました。 (J-STAGE)
今回の患者さんでは、下肢の引きつり、眼瞼下垂、声の変化など、これまで一つひとつ別々に捉えられていた症状を、東洋医学の経絡という視点から改めて全体として捉え直しました。
当院で行った「骨格クリーニング」と鍼灸治療
当院では、経絡だけを見るのではなく、身体の構造的な状態も確認します。
そこで行ったのが、当院独自の「骨格クリーニング」。
特に上部頚椎周辺を丁寧に確認し、顔面部や喉の状態との関連も考えながら身体を整えていきました。

その後、鍼灸治療では、
照海 ― 列欠
という組み合わせを用いました。
照海は足少陰腎経に属し、陰蹻脈の交会穴です。一方、列欠は手太陰肺経に属する要穴で、古典的な経絡治療では照海と組み合わせて用いられてきました。 (北海道教育委員会リリオ)

治療後、患者さん自身がすぐに変化を感じました。
「唾液が出てきました」
そして、鏡を見てもらうと、
「瞼が開いています」
それまで下がっていた瞼が、明らかに開きやすくなっていたのです。
さらに、その日の夜は、
「朝までぐっすり眠れました」
と話してくださいました。
経絡治療で健康を取り戻した女性
もちろん、一度の施術だけですべてが解決したわけではありません。
その後は週2~3回の施術を継続していただきました。
その都度、身体の状態を確認し、経絡の反応や圧痛、身体の動きなどを見ながら施術内容を調整していきました。
そして約3か月。
少しずつ症状が落ち着き、最終的にはご本人が「元の健康な状態に戻った」と感じられるまでに回復されました。

「病名」だけではなく、「その人の身体」を見る
この症例で私が大切だと感じたのは、
「症状を一つずつ別々に見るのではなく、身体全体を一つのシステムとして見る」
ということです。
西洋医学には、西洋医学にしかできない検査や診断、治療があります。
一方、東洋医学には、脈、舌、腹部、圧痛、経絡などから身体全体の状態を捉える独自の考え方があります。
どちらか一方が正しいということではありません。
大切なのは、それぞれの視点を活かしながら、その人の身体を多角的に見ることではないでしょうか。

特に、眼瞼下垂に加えて声の変化や飲み込みにくさ、筋力低下などがある場合には、重症筋無力症を含む神経・筋疾患などの鑑別が重要です。日本神経学会も、眼瞼下垂や構音・嚥下障害などを重症筋無力症の症状として挙げ、必要に応じて神経内科での評価を勧めています。 (日本神経学会)
だからこそ当院では、病院での診断や検査を否定するのではなく、必要な医療につなげながら、鍼灸・経絡・骨格・身体の動きなど、別の角度から身体を観察します。
「症状があるから、そこだけを見る」のではなく、
「なぜ、この人の身体にこの症状が現れているのか」を考える。
それが、札幌スポーツケア治療室が大切にしている治療の考え方です。
※本記事は当院での一症例について、患者さんの経過をもとに紹介したものです。鍼灸・経絡治療による効果をすべての方に保証するものではありません。また、眼瞼下垂、嗄声、嚥下障害、筋力低下などの症状がある場合は、自己判断で医療機関の受診を中断せず、適切な検査・診断を受けることをおすすめします。
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